映画「はちどり」

【14歳の少女の静かで淡々とした日常。でも、14歳の少女には十分なドラマ】

1994年の韓国が舞台。大きな団地に住む14歳の女子中学生ウニは、学校には馴染めていないが、ボーイフレンドもいるし、漢文塾に一緒に通う友人もいる。ただ、父親は家父長制の意識が強く兄にばかり期待しており、そのプレッシャーの陰で兄は妹に暴力をふるったりする。そんな、ちょっとイライラする日常を送っている…という話。

タイトルの「はちどり」は、小さな小さな鳥で、細かく早く羽ばたいて、ホバリングするのが特徴です。もちろん、ウニのことを表しているのでしょう。精一杯羽を動かしながら、漂っているような感じです。

超学歴志向の先生、ボーイフレンドとの関係、友人との関係、後輩との関係、兄ばかり気にかける父親、何を考えているのかよく分からない母親、家に居場所を感じられないのか外出してばかりの姉、そして、ミニ父親化している兄、自分のことをちゃんと見てくれる漢文塾の先生との出会い、そしてちょっとした病気…大きなドラマがあるわけではありません。「これは、いったい、どういう話なのだろう?」と思いながら見ていました。

劇中、何度となく彼女は傷つくことになります。それは、決して大きな傷ではないかもしれませんが、扱い方を間違えれば、後々まで引きずり続けてもおかしくはないようなことでした。それを象徴するのが、後々まで傷跡が残ったり、後遺症が残るかもしれない、耳の後ろの小さなしこりということでしょう。

その中でも、大きな事件と言えるのが、実際に韓国で起きたソンス大橋崩落事故です。1988年のソウルオリンピック開催など、朝鮮戦争後の韓国は「漢江の奇跡」と呼ばれる驚異の経済発展を遂げてきました。一方で、経済を最優先することで、さまざまな歪み・膿みも生んできました。ソンス大橋の崩落事故も、後にさまざまな手抜きが発覚しました。

これは、ウニを取り巻く、学歴至上主義、家父長制、男尊女卑社会など、当時の韓国では当然とされていたものの象徴でもあるのでしょう。韓国だけでなく、現代の日本も克服できていない問題ですよね。「これで、いいはずないよね」という問題提起です。

彼女のメンター的な存在になる漢文塾のヨンジ先生は、大学を長く休学しているということ、ウニの前で歌った曲の内容(労働歌ですよね)から、何かしらの学生運動、民主化運動にかかわってきたのだと推測されます。つまり、誰かからの強制や支配、あるいは暴力に対して、「声をあげた」人ということですね。そういう経験をしてきた人だからこそ、ウニに対してのアドバイスが強く響くのだと思います。

後から知ったのですが、キム・ボラ監督は1981年生まれ。つまり、ウニと同い年なんですね。当然、監督が経験したことがウニに投影されているのだと思いますが、同時に、当時の自分に「こんな声をかけてやりたい」「こんな人がいてほしかった」と思う監督の今の姿が、ヨンジ先生に投影されているのではないでしょうか。