映画「イップ・マン 完結」

みんな大好きドニー・イェンの「イップ・マン」シリーズ。

実は3作目「継承」は観ていなかったので、先日TV放送していたのを観たうえで、本作を鑑賞しました。

1作目は日本による占領、2作目はイギリスによる支配、3作目はアメリカの経済侵略と、中国・香港の歴史をなぞらえながら、外敵から中国と中国武術の尊厳を守るために、戦ってきたイップ師匠ですが、今回はアメリカに進出します。 

弟子であるブルース・リーからアメリカでの空手大会に招待されたイップ師匠。一度は断るものの、地元の学校から放校された息子をアメリカで学ばせるために、学校探しも兼ねてサンフランシスコに向かいます。名門高への紹介状をもらうために中華総会を訪ねますが、彼らによく思われていないブルースの師匠であるイップ・マンは拒否されてしまいます。冷遇どころか、一触即発の状態です。

それで、アメリカにおける中国移民間の問題として話が展開していくのかと思っていたら、そこから海兵隊や移民局まで絡んできます。

背景にあるのは、アメリカの白人の移民蔑視。そして、その中で、中国人がどう生き抜いていくのかという選択の問題。先日観た「ルース・エドガー」にも通じるような話もあったりします。

日本での公開が遅れたおかげで、Black Lives Matterや香港の自治問題などの社会動向が追いついてきたようにも見えます。

その社会の動きとともに、反抗期の息子に手を焼くイップ師匠が、中華総会のワン会長と娘ルオナンとの関係性を客観的に見ることで、息子への態度を考え直すという、個人的な物語もあります。

シリーズに共通する構造のなかで、いろんな要素の絡ませながら、ストーリーを展開していくところは、上手いと感じました。

ただ、そろそろ、敵が、どこからどう見ても完全に悪者というのは、物足りなくも感じます。まあ、とことん悪い奴でなければ、基本的に平和主義者であるイップ・マンが戦う理由がなくなってしまうのかもしれませんが。

今回で言えば、ワン会長は、登場時こそ意地悪な奴ですが、彼は彼でアメリカ社会の中で中国移民がどうやって生き残っていくかを、一生懸命考えているのです。挌闘の場面でも、イップ師匠が左腕を痛めていることを知ると、自らも左手を封印して戦うのです。こういうファイトは熱くなりますよね。

ちょっと気になったのは、ブルース・リーの存在。もちろん空手大会や、「ドラゴンへの道」を再現したような挌闘は、十分楽しんでいたのですが、その後は、直接、話には絡んでは来ないんですよね。そもそも、中華総会がイップ師匠に冷たくあたったのもブルースの活動をめぐってのことだし、海兵隊のいざこざも自分の弟子ハートマンが起点になっているのですから、本来はブルース自身が落とし前をつける話なのではないでしょうか。師匠たちを手当てしている場合じゃないでしょ、とは思いました。

実際のイップ・マンは、ブルース・リーに対して、いろいろと思うところはあったというような話もありますが、そういうことも踏まえて、この作品としての「答え」みたいなのがあってもよかったのではないでしょうか。