映画「彼らは生きていた」
映画館再開第1作目の映画は、各所で「1917 命をかけた伝令」とセットで語られていた「彼らは生きていた」でした。すでに配信でも見られますので、準新作ですね。
「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズのピーター・ジャクソンが、第1次大戦時の西部戦線のイギリス軍の様子を撮影したフィルムを補正、着色してリマスタリングし、音響効果を加えて、退役兵士へのインタビューをのせたドキュメンタリー映画。
原題は「They shall not grow old」直訳すると「彼らは年をとらない(「とらせない」のニュアンスがあるのかな?)」。邦題の「彼らは生きていた」が過去形であるのに対して、原題は現在形なんですね。原題は、彼らのことを歴史に埋もれさせることなく、考え続けようという意図が感じられますし、邦題は、第1次大戦とは距離感のある日本だからこそ、戦死した若者だけでなくインタビューに答えている退役兵士たちも含めて歴史としてちゃんと見つめようという意図も感じられます。どちらも理解できて、いいタイトルだと思います。
まずは、戦場に赴くまでの、イギリス国内での兵士募集や訓練の様子が展開されます。モノクロで、いかにも資料映像っぽく映し出されます。兵士になれるのは19歳からということなのですが、志願する方も募集する方もガバガバで、中には15歳の少年もいたらしいです。訓練中に街中を行進すると、それにつられて、そのまま入隊する者もいたそうです。自国を侵されていないイギリスだからというのもあるのでしょうが、その後、どうなるのか、誰もよく知らないんですよね。「靴に、自分の足をあわせろ!」なんてう兵隊の理不尽は、万国共通なんですね。
そんな若者たちを、6週間の訓練の急ごしらえで、西部戦線に送り込むわけですが、いよいよ戦地というところで、画面が鮮やかなカラーに、そしてワイドになります。歴史映像ではなく、現在進行形のドラマとして見てくださいってことでしょう。
「1917 命をかけた伝令」でも、しっかりと当時の様子を再現したのでしょうが、本作の映像を見ると、塹壕はより狭く、より複雑で、より不潔で、より劣悪であったことが分かります。それでも、カメラが向けられると、彼らは笑っていました。前を歩く兵士のヘルメットを、後ろから棒でコツコツしながら歩くような、運動会の予行演習でふざける中学生みたいなヤツもいました。
「ダンケルク」では、救助された兵士に何よりもまず紅茶を飲ませていましたが、本作では、煙や湯気が上がると敵に狙われるという状態でも、なんとか湯を沸かして紅茶を飲もうとする様子が映し出されていました。ホントに英国人って紅茶好きですよね。
戦場では、捕虜のドイツ軍兵士との交流もあります。朗らかに談笑したりしています。同じドイツ人でも「バイエルン人やサクソン(ザクセン)人はいい奴だが、プロイセン人は嫌われていた」というひと言が印象的でした。当時、ドイツを支配していたのはプロイセンなので、バイエルンやザクセンの人たちからしてみたら、「戦争をやらされている」感じだったのかもしれませんね。
もちろん、そんな、のほほんとしたシーンばかりではありません。急襲作戦に入ると、次々と兵士が撃たれていきます。打たれる前に鉄条網に絡まって命を落としていく兵士もいます。後方からは味方の砲撃があり、前方からは敵の狙撃手が狙っているし、毒ガスだって流れてきます。横たわっている死体は、エキストラでもCGでもなく、先ほどまで生きていた本物の死体です。
白兵戦になると、さすがに当時も撮影できなかったのでしょう。イラストで展開していきますが、それまでの状況をリアルに見ていますから、イラストでも、十分その様子を脳内で上映することができます。
印象的だったのは、停戦が決まってからの様子。安堵しているようには見えましたが、誰も喜んではいないんですよ。彼らには勝利の実感はない、何も勝ち取っていない。ただ、命を落とした兵士と生き延びた兵士がいた…というだけなのでしょう。さらに、帰国してからの彼らには、ひどい仕打ちが…。これは、実際に作品をご覧ください。
「彼らは英雄だ!」とたたえるべきだなどとは思いません。おそらく、彼らはそんなことは望んでいないでしょう。戦争には無駄死にしかありません。戦争に踏み切った時点で、それを決めた人たちは、もう「負け」なのです。本作には、そういう上層部の人たちが一切出てきません。出てこないことで、その愚かさを映し出すということなのだと受け取りました。
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