映画「火口のふたり」

【もし世界が終わるなら、あなたは誰と寝て、誰と食をともにする? 今だからこそ迫る問い】


同時に見たのが、「岬の兄妹」だったので、こちらは安心して「エロいなぁ」と思いながら、観てました。

妻子と別れ、仕事も辞めた賢治が、直子の結婚式に出席するために、故郷の秋田に帰る。2人は兄妹同然で育ってきたのだが、実は一時期東京で恋人同士でもあって…という話。 

冒頭、失業中で暇を持て余し、川でビールを飲みながら釣りをしている賢治のところに、父親から、直子の結婚を知らせる電話がかかってきます。この電話に出ている間に、ウキがすいーっと沈んでいきます。これだけで、「あぁ、彼は、タイミングの悪い人間なんだな」と思わせてくれます。

実家に帰ると、直子がやってきて、二人の関係性がセリフで説明されます。ものすごく説明的なセリフなのですが、会話に出てくる登場人物が多く、かつ、なかなか複雑な事情があるようで、いまいちアタマに入ってきません。のちに、いくつかの場面でのセリフから、2人の関係性が分かるので、あえてそうなっているのかもしれません。

2人は、基本的にはダメな人間です。賢治は、離婚経験あり、失業中なのですが、「できない奴」というよりは、プライドが邪魔をしているタイプのように見えました。直子は、しっかりしているようですが、一時の感情に流されるタイプですかね。結婚式直前に、婚約者が出張で不在だからといって、元カレに会うという時点で、完全にダメです。とっても気持ちは分かりますが、ダメです。最初から、やる気マンマンです。 

「1日だけ」と言ったって、「サル」というには猿に失礼なくらいサル化した賢治が聞くはずもありません。婚約者が戻ってくるまでの5日間、粉が出るくらいヤリまくります。セックスして、食べて、寝て、セックスして…の繰り返し。人間の三大欲求を大爆発させています。しかも、期間限定でその後は直子は人妻だから、よけいにブーストがかかっている感じ。

しかし、存分に生きる悦びを味わっている2人を見ていると、逆にどこかで「死」の気配も漂っています。賢治が失業した原因だったり、直子が結婚したいと思った背景だったり…。どこか、行き詰まり感、先行きの無さを感じます。「亡者踊り」のシーンが出てきたときには、これはもしかして、2人で黄泉の世界に行くタイプの展開なのか?と思いながら見ていました。

このまま行くと、婚約者が早めに帰ってきて悲惨な状況になるのか、あるいは、帰ってくる前に逃避行に走って、やはり悲惨な状況になるのかと想像していましたが、後半は「え? 何それ!」と、もう別ジャンルの映画になるような展開を見せます。

理性はひとまず横に置いておいて「体の言い分に身を委ねる」を堪能してきた2人にずっとフォーカスしてきた映画ですが、その周りでは、彼らだけではなく人間が到底逆らうことができないような自然の脅威が近づいていたということですね。

でも、それさえも、新型コロナウィルス禍の真っ最中の日本ですから、ある種のリアリティを感じる展開になってしまいました。 「その時、あなたの隣にいる人は、本当にその人でいいですのか?」と問いかけられているような気分になりました。

「火口のふたり」とは、2人が付き合っていた頃に撮影された写真のことですが、火口から噴き出すマグマは、怒りや情念、人間の欲望の例えとして使われることが多くあります。つまり、人の欲望が溢れ出すギリギリのところにいて、一度噴き出したら真っ先に飲み込まれる2人といった意味だと受け取りました。