映画「ライオン・キング」

25年前のアニメも、劇団四季のミュージカルも見てます。ミュージカルは、生の歌の圧倒的な力と、人間が動物を演じるということで身体表現の美しさ、衣装のクリエイティビティと、映画とは異なる魅力を持っていました。今回、3DCGでのリメイクで、動物の質感などの表現は超絶すごいことになっていますが、物語の大筋はそのまま。「何のためのリメイクか?」と考えると、実写版「アラジン」がジャスミンの物語として見事に現代的アップデートが成功していたのと比べると、ちょっと物足りないものがありました。 

もちろん、アップデートはあります。特に、スカーとハイエナたちの悪役周り。スカーが兄王を蹴落として王位を狙うのには、どうやら過去の確執があるようです。ハイエナたちも、ただ「ハイエナ=卑劣、下品、貪欲、汚れ、悪」という決めつけではなく、常に空腹でものを食べつくすという習性が語られます。これは、ムファサが狩場をコントロールして、サークル・オブ・ライフを守ろうとしていることと相容れませんから、彼の王国からは排除されるということです。また、王妃サラビやラナの出番が多いというのも、現代的なアップデートと言えるでしょう。 

その他、シーンや歌の削除・追加などがありますが、物語としては、父王を殺され、追放された王子が、新しい仲間と新しい生活を送っていたところに、偶然幼馴染と出会い、改めて自分の使命に気付き、復讐を果たして、王国を再建するということで、まったく同じなんですよね。


まあ、それで面白くないかと問われれば、もちろん面白いのですが。


本当に現代的にアップデートするのであれば、例えば、シンバが治める国は、ムファサのそれと何が違うのか? ムファサは前述のように動物が共存共栄できる=サークル・オブ・ライフを守る国を作ろうとしていました。では、プンバやティモンとの自由気ままな生活を経験したシンバは、どういう王国を作るのか? ハイエナたちでさえ疎外されない国をつくれたら、それはすごいよね。そういったところで「そうきたか!」と驚きの声を挙げたかったのです。期待値が高すぎますかね? あるいは、変化させないことが、サークル・オブ・ライフを守ること?

さらに、CGで超リアルに表現力が向上している一方で、それぞれのキャラクターは弱まっています。動物達の表情や所作もデフォルメがなくリアルに近づけていますので、ある意味、ドキュメンタリー映像を見ているようです。ならば、動物ドキュメンタリー風のつくりに徹するという選択肢もあったのではないでしょうか。ナレーションとBGM(BGMとしての歌も含む)だけで、動物ドキュメンタリー映画として撮るというのもアリだったのではないでしょうか。それならば、リメイクする意味は強調されます。

まあ、そこまで思い切ってしまうと、あまり客が入ると思えないので、「そのあたりのバランスをとっていったら、こうなった」ということかもしれませんね。