映画「スノー・ロワイヤル」

「リーアム・ニーソンが子どもを奪われて逆襲する」というジャンルの映画。でも、今回は誘拐ではなく、すでに息子が殺害されていますので、ゴールが見えません。復讐相手のギャングは、敵対する先住民ギャングが仕掛けてきたのだと勘違いして、抗争が始まってしまう。あまり事件が起きない田舎の警察官は、ここぞとばかりに張りきって捜査しようとする。ボタンを掛け違えたまま、どんどん話が転がってしまう、ある意味コメディでした。

本作のリーアム・ニーソンは、「元●●の殺人マシーン」ではなく、黙々と作業に努めてきた除雪作業員。復讐も、基本は「素手で殴る」。あとは、犯罪小説で得た知識と、厳しい環境の中で培った生活能力をフルに活かすというもの。 

後々、あるエピソードで、彼の家には本がないことが語られるのですが、「なぜ本がないのか」「じゃあ、その犯罪小説は誰の本だったのか」を想像すると、なかなか切ないものがあります。これを確認するために、もう1度見てみてみようかと思うくらい。

やっていることは、行き当たりばったりなのですが、相手のギャング達をはじめ、出てくる男たちが全員ちょっとずつどうかしているので、そのまま話が進んでいきます。誰も軌道修正しない。ツッコミ役である女性陣も、こちらはこちらで振り切れていて、ツッコミさえも完全にボケになってしまう。ツッコミが成立しないから、ずっとドラマとして続いていく犯罪コントのようなものです。

雪の風景、殺人、先住民…ということで、「ウィンド・リバー」を思い起こしますが、本作はそんな緊張感はまったくなく、ずっと「笑っていいんだよね、これ」というシーンが続いていきます。

特徴的な演出として、人が命を落とすシーンが終わると、そのたびにキルカウントのように、死亡した者の名前、通り名、そして信仰のシンボル(キリスト教なら十字架)が映し出されれていきます。これも、コントでスクリーンを使うような感じです。

このシステムが面白いのは、繰り返していくと、あえて殺害シーンを映し出さなくても、キルカウントだけで殺されたことが分かるので、ものすごく引き算の演出ができるということ。そのテンポのよさで笑いに持っていくこともできます。

エンドロールも凝ってました。キャスト紹介で「in order of appearance(登場順)」というのはよく見ますが、この映画はひと味違っていました。こんなところでも笑わせてくれるとは! 「そんな映画が他にあったかな?」と気になって、ちょっと検索してみたら、そもそものリメイク元の原題が、アレなんですね。これはやられました。

映し出される風景は、まったく違うのですが、全体に流れるペーソス、笑っていいのかな?と思ってしまうようなブラックユーモア、助走ゼロでの殺人…なんとなく北野武映画を思い出していました。そう思うと、スキー場で戯れる先住民ギャングは、「ソナチネ」の南の島の砂浜で、場面花火や人間紙相撲をやっているヤクザのようにも見えてきます。