映画「女王陛下のお気に入り」

あまり事前に情報を入れずに鑑賞しました。

しばらくは「バカ殿+大奥みたいな、上流社会を皮肉ったコメディなのかな?」と思いながら観てました。アビゲイルが主人公で、グイグイのし上がっていくんだな…と。

確かに、コメディだし、エマ・ストーンものし上がっていくのですが、彼女が主人公ということでもなかったですね。 まず、絢爛豪華な宮殿と衣装で、やっていることはひどく下品という、これだけでも、コメディ要素たっぷりで十分面白い。

でも、ドタバタを観ながらカラカラ笑うというものではなく、愛憎入り混じり、くんずほぐれつのドロドロ劇を観ながらひくひく笑うというものでした。「泥」もたくさん出てきます。

歴史に疎いので、後から調べて分かったのですが、ストーリーの大筋や人物、人間関係などは史実を踏まえたものなんですね。さらに、アン女王が即位するまでも、なかなかドラマティック。そりゃあ、アンとサラがただの幼馴染以上の関係性にもなるのも納得です。

広角レンズを多用した、異様なカメラワークは、豪華絢爛な宮殿風景を見せながらも、どうしても中心部に視点が向くので、周りを囲まれた窮屈さを演出しているのでしょう。

章のタイトルのつけ方も面白いですね。 その章のなかで出てくる台詞の一部が章のタイトルになっているのですが、冒頭にさらっと出てくる台詞のところもあれば、「おー、ここで出てくる台詞なのか」みたいなところもあって、楽しめます。

エマ・ストーンの、サービスシーンが一つあるのですが、それまで何度か際どいシーンを見せておいて、「あー、ここで見せるのか!」と、ここぞというところで脱いでいます。確かに、ストーリー展開的に最も破壊力のある場面です。

アカデミー賞の衣装デザイン賞発表の際に、こんなツイートをしました。

もちろん、本作を想定したつぶやきですが、「伝統的なものを再現」というのは、私の思い違いでした。中世の王族・貴族の衣装なのですが、そっくり再現というわけではなさそうです。デニムっぽい生地が使われていたりします。これと同じ違和感が、ダンスのシーンでもありました。いわゆる社交ダンス的なものではない、ずいぶん現代的な振り付けが取り入れられたりしています。今につながる何かがあるからこそ、それを投影して中世を舞台にした本作を作ったのでしょうから、その「現代とのつながり」がこのあたりに現れているのかもしれません。

エンディングは、解釈が分かれそうな締め方になっています。 アビゲイルが、どこまで登りつめようとも、女王陛下に仕える身であることは変わらず、所詮は「お気に入り」でしかないという意味は、当然あると思います。それに加えて、決別してしまったけれども、サラは「お気に入り以上のもの」であったということが強調されているような印象を受けました。サラの代わりにアビゲイルがいるのではなく、サラを切った以上、自分は虚無や孤独とともに生きるのだという女王陛下の悲しい強さを、私は受け取りました。

エンドロール(ロールではないですが)で流れる、エルトン・ジョンの「スカイライン・ピジョン」も良かったですよ。暗く孤独な部屋から、翼を広げ遠い国へ飛び立たつことを夢見る歌です。