映画「ヘレディタリー/継承」

「やたら怖い」という世評でしたが、個人的には、そこまでではなかったです。

いやいや、決して 強がりではないですよ。 

たぶん、びっくり箱的な脅かしや、直接的な恐怖映像での怖がらせは抑え気味で、BGMやSE、絵の作り方も込みで全体的な禍々しさ、そして、何が起こっているのか分からない怖さが中心だから、そっちに気持ちが持っていかれると、怖さより面白さの方が勝ってしまうということでしょう。

それと、冒頭のドールハウスの映像からシームレスで本編に入るところで、「おや、これは現実の話ではないのかな?」と思いながら見始めたので、「自分の身には起こらない話」として、単純に楽しめたというのもあるかもしれません。

この冒頭の流れは、登場人物の誰にも感情移入をさせずに、観客を第三者目線に置くような意図があったのではないかと思われます。  

死んだ母エレンが遺した何か呪いのようなものに、主人公アニーとその家族が巻き込まれていく話なんだろなぁとは思いつつ、最初は、話がどこに向かうのか、まったく分からないまま、不穏な感じ、嫌な感じがどんどん蓄積されていきます。 

「あれ? そもそもアニーも、ちょっと変なんじゃないか?」と思い始めたのが、ピーターがパーティーに行くのを許したところ。いくら、酒を飲んだりさせないためとはいえ、そんなことを指示する?  

そして、ここから、話がどんどん展開していきました。  

ということで、あまり物語の展開に触れてしまうと、面白さが半減してしまう気がしますので、この程度で。 

とにかく、最後には、祖母エレンが何を遺したのか、しっかりと見せてくれます。見たくなくても、見せてくれます。 なぜ、ピーターは祖母から引き離されて育てられたのか。なぜ、妹は「チャーリー」という男の子みたいな名前なのか。

そして、直接的には登場しなかった他の家族のことも、ちゃんと想像できるようになっています。いろいろとつながって「最悪やないか」となります(褒め言葉です)。 

途中で、アニーが、息子ピーターに、ある最低な告白をします。しかし、それも、アニーがこの家族の忌々しさを(無意識的に)断ち切ろうとしようとしたものが、母親エレンに妨げられたと思うと、「そりゃあ、心がどうにかなっちゃうよな」と納得ができるのでした。 

すごく、緻密に作られているのだろうと感じました。 

あと、エンドロールの演出が秀逸。ちゃんと血脈によって継承していく「ヘレディタリー」になっていて、スタイリッシュ!  2018年度ベストエンドロール賞でしょう。

アニー役のトニー・コレットの顔芸は、「シャイニング」のジャック・ニコルソンのように、これからもこの作品の象徴として、映画の歴史に残っていくのではないでしょうか。