映画「ももいろクローバーZ ~アイドルの向こう側~ 特別上映版」

【アイドルの向こう側はアイドル】

アイドルのドキュメンタリーといえば、華やかな舞台の裏での苦労や苦悩を映し出すものというイメージがありますが、この作品には、それらはほぼありません。ドキュメンタリーというよりは、インタビュー番組の劇場上映です。以前、TBS「解放区」で放送されたテレビ版も見ています。

私自身は、ファンクラブに入会し、ライブに参戦する程度にはももクロ好きですので、インタビューを観るだけでも十分に楽しめます。冒頭の、おにぎりの具あてクイズだけでも、うひゃうひゃ言いながら観ることができます。もし、新しい発見がなかったとしても、「やっぱ、そうだよね」と確認できます。 ただ、そうでない人にとっては、どう見えるのでしょう? 「怪盗少女ぐらいしか知らないけど、最近バラエティ番組とかで、また、ちょくちょく見るよね」ぐらいの方々にとっては、どう見えるのでしょう。自分自身は楽しんで見つつも、そこがちょっと心配になりました。

この間、コロナ禍で思うようにライブが出来ない中、各メンバーがテレビ出演を増やしてきました。感染拡大初期には見えなかった動きですので、事務所として、意識してやってきた方針なのでしょう。歌だけでなく、芝居だろうがバラエティだろうが、どこにでも顔を出せるのが、アイドルの強みでもあります。

そんな中、メンバーの玉井詩織は、どんな場面でも、危うげなくこなせることに定評がある一方、自分でも「器用貧乏」だと言ってきました。そこで、インタビューでは、経験を積んできたからこそ感じる怖さについても言及しています。それでもなお「いろんなことに挑戦して、中途半端だと思われるのは嫌だ」と言っています。たぶん、彼女は、ももクロのことについてならば、どれだけでも話せるけれども、「アイドル」として一般化した質問については、あまり深く考えてはいないのでしょう。だからこそ、いろいろな番組に出演しても、アイドルとして求められることではなく、「ももクロの玉井詩織」として何ができるかを考えているのだと思います。

そうなると見たくなるのは、ロケやスタジオ収録にあたってのスタッフや共演者たちとの打ち合わせ中の様子など、インタビューの言葉を裏付けるようなシーンです。もともとは、延期になった彼女が座長をつとめる明治座公演に密着する予定だったそうですが、「特別上映版」と銘打つならば、TBSですから「モニタリング」などで、裏側を新しく撮影することもできそうなのですが…。

日頃から活動を追いかけているファンであれば、テレ朝動画のももクロChanやライブDVDの特典映像、あるいは日経エンタテインメントのインタビューなど、いろいろなコンテンツとつなぎあわせて、勝手に内容を補完することができますが、そうでない人は、どう受け取っていたのでしょう。 自分が好きだからこそ、ファンじゃない人にも楽しめるような、これ一本でも完結できるような作品であってほしかったな、と思います。欲張りですか? 

これまであまりももクロを知らなかった方は、ひとまず「はじめてのももクロ」もご覧いただけるといいのではないでしょうか。


本作のメインのテーマとしては、「20代を過ぎても活動を続ける女性アイドル」という新しい像を見せたいということなのでしょう。 しかし、すでにNegiccoは全員30代で既婚者、先日もメンバーの妊娠が発表され、3人の子どもが同学年になる予定です。でんぱ組.incの古川未鈴も結婚・出産しています(年齢は非公表)。メンバー入れ替わりが前提のAKB48でも、柏木由紀が30代に入って現役を続けています。アイドル界全体として、「ある程度になったら卒業するもの」「恋愛NG、もちろん結婚・出産も」という常識が変化する中に、ももクロもいるのです。

そもそも、そもそも松田聖子は、20代前半で結婚・出産しているので、女性アイドルにとって、結婚・出産はタブーでも何でもないはず。決して、ももクロが先駆者というわけではないので、あまり「前人未到の世界に挑戦」みたいな感じを出されると、「それは、ちょっと…」と感じてしまいます。

一方で「辞めたいと思ったことは?」という質問に対する回答が、四者四様で、とても興味深かったです。特に、あーりん(佐々木彩夏)は、幼い頃から芸能界で育ってきたからこそのシビアな回答であり、その覚悟で日々活動しているということです。自分たちのことだけでなく、アイドル界も芸能界も俯瞰して見ることのできる、視野の広さのようなものを持っているのでしょう。最後を締めるのもあーりんでした。ちゃんと相手が問うていることを理解し、ありきたりな言葉ではなく、自分の考えを自分の言葉で整然と話すことができる、インタビュー向きの人です。

あーりんが「職業としてのアイドル」という視点で見ているのに対して、高城れには「関係性としてのアイドル」とでもいいましょうか、徹底的にファンの思いに寄り添っているような印象を受けます。「みんなが思っている以上に、私はみんなのことが好きだからね」という言葉は、「推されたら推し返す」という、まさに彼女の、アイドルとしてのというより、人としての姿勢を表しています。

また、リーダーの百田夏菜子は、「自分がやりたいことをイメージすると、ももクロとしてやりたいことが浮かぶ」といったことを言っています。それは、彼女がソロコンをずっとやってこなかったことにも関係しているのでしょう。また、彼女が作詞作曲した「一味同心」にもつながるような気がします。それでいて、なんとまあ自由というか、いい意味で次元がちょっとズレているというか、本当に面白い方です。

そして、ラストに流れるのが「ロードショー」とは、気がきいているじゃないですか。 劇場上映だから「ロードショー」ということではないはず。

♪Show must go on! 物語はさらに佳境へと 突入いたします

みんな考え方の軸や角度は異なっているのだけど、結論は共通していて「ももクロとしてやりたいことがまだまだある」ってことだと思うのです。邪道だと思っていた自分たちの道が、どんどんアイドルという道幅を拡張させ、そして、アイドルという道の向こう側にあるのは、やはりアイドルなのです。