映画「モガディシュ 脱出までの14日間」

【ブラックホークダウン+アルゴ+JSA+タクシー運転手】

1990年、国連加盟を目指し、当時のソマリア政府にロビー活動を展開する韓国大使館。一方、以前からアフリカ諸国と関係を築いてきた北朝鮮は、それに対抗すべく妨害工作や情報操作を続けていた。そんな中、現政権に不満を持つ反乱軍が首都モガディシュまで侵攻し街は内戦状態に。各国の大使館も現政権を支援していると見なされ襲撃にあう。公館を放棄した北朝鮮の大使たちは、韓国大使館に逃げ込み、反目し合いながらも共同してソマリア脱出を図ることに…という物語。

ソマリアの内戦といえば「ブラックホークダウン」、大使館員の脱出といえば「アルゴ」、南北朝鮮の知られざる交流といえば「JSA」、クルマでの脱出といえば「タクシー運転手」を思い出します。また、反乱軍も政府軍も関係なく、ただただ暴力が支配するようになった世界は、さながら「マッドマックス」のようでもありました。

内戦が本格化する時点までは、北朝鮮のエゲつない妨害工作などはあったものの、それぞれの立場を説明しながら、コメディ色を強く感じました。後の状況を考えると、笑えるぐらいの小競り合いは、それでも平和な風景でした。

本作は実話に基づくということなのですが、どれぐらい脚色されているのでしょう? 特に、北朝鮮大使側は、本人たちが事実を話すわけにもいかないので、相当に脚色がなされているのでしょう。でも、それでいいです。そのことを踏まえても、フィクションとして面白いから。

印象的なのは、やはり韓国大使館で両国が立てこもるところ。まさに呉越同舟です。特に食事シーン。まず、北朝鮮側は誰も食事に手を付けようとはしません。こういう時には、空気を読まない子どもたちが、空腹に耐えきれず、がっついたりして、微笑ましい流れになったりするものです。北朝鮮では、子どももキッチリと教え込まれているということが分かります。そもそも、紛争状態の国に子どもを連れて赴任するほど、本国の状況が酷いということも想像できます(韓国側には子どもはいない)。人質代わりに、1人は家族を国内に置いてくるという話もありました。

そして、エゴマのシーン。韓国・朝鮮の習慣として日常的にやることなのかどうかは分かりませんが、日本人の感覚で見ると、かなり親しい間柄でやることのように見えます。あのシーンは、ある意味「家族になった」ということを象徴しているのでしょう。まさに、同胞(はらから)です。

一方で、そんな中でも、参事が裏でいろいろ動いているわけですが、あの格闘シーンは必要?と思ったりもしました。そもそも、参事がそんなに格闘に長けているの?というところですが、紛争地域ということで、そういう人物が送り込まれているのでしょうか。実はKCIAとか。それはそれで面白いかもしれません。

この籠城で、脱出までの14日間のうち、かなりの時間が経っているはずなのですが、それがもう一つ伝わりづらかったです。わざわざ邦題に「14日間」を入れているのに、じりじりと追い詰められて、「もう一緒に脱出するしか!」という結論に至るという感じはありませんでした。それを表現していたら、テンポが悪くなるってことかもしれませんが。

クライマックスのクルマでの脱出劇は、「さすがに、それは無理でしょ」とは思います。その荒唐無稽っぷりを、ある1つの展開でねじ伏せる、有無を言わせぬ力技です。

内戦状態(南北朝鮮だって、停戦しているけど今も戦争状態)という、シリアスな問題を扱いながら、エンタメとして見せるということには大成功しています。

個人レベルで「生き残る」という共通の目的があれば、国家や思想は関係なく、手をつなぐことができるということなのだと思います。でも、それを国レベルまで拡大すると、国の在り方を揺るがすような外的脅威がないと一緒になることはできないということになるので、それはそれで期待するようなことではないよな…と、モヤモヤするのでした。