映画「リコリス・ピザ」

【最上級の内輪ネタ】

舞台は1970年代のロサンゼルス、サンフェルナンド・バレー。カメラアシスタントのアラナは、ある高校での写真撮影で、子役をしている高校生のゲイリーに出会う。ゲイリーは、アラナに一目惚れ。自信家でビジネスにも積極的なゲイリーと、自分の将来が見えないアラナ、年齢差のある2人の距離は近づいたり離れたり…という物語。

単純なボーイミーツガールの青春ロマンティックコメディなのかというと、そうでもなく、まず、ゲイリーとアラナの2人が、微妙にイケていない。

ゲイリーは子役俳優をやっているけど、大きくなり過ぎて、子役としてはピークを過ぎている様子。それを本人が意識しているかどうか分かりませんが、事業を起こすことにも積極的。前向きで、自信過剰で、ヤマっ気も強い。大人の中で生きてきたので、子どもと大人が同居しているように見えます。

アラナは、25歳と言っていましたが、実際はもう少し上でしょうか。カメラアシスタントをしながらも、まだ何者にもなれない自分に、モヤモヤや焦りを感じているようです。

そんなアラナですから、イケイケのゲイリーに対しては、ギラギラ、そしてキラキラしていて羨ましいと思う一方で、子どものそういった振る舞いにイライラもするのでしょう。惹かれつつも反発もしてしまいます。

実在の人物が出てきたり、実際のエピソードを踏まえていたりして、当時の時代を丸ごと描こうという点では「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」とも似てる気がしました(少し時代はズレますが)。

では、忠実に70年代を再現しているかというと、必ずしもそういうわけでもなさそう。特にファッションやメイク、ヘアスタイルなどは、古臭く見えないように、現代風にモディファイされているはず(詳しくないので、よくは分かりませんが、そう感じました)。「俺たちの好きな70年代」ということなのでしょう。

とにかく、この2人に絡んでくる大人たちが、いずれもクセが強い! 特に、ショーン・ペンの「いかにも」という感じの渋い俳優と、ブラッドリー・クーパーのどうかしているハイテンション・プロデューサーは、ノリノリで真面目に悪ふざけをしています。

そして、なぜか本作中で最も緊張感が高いのが、カーアクション。といっても、カーチェイスなどではありません。ある意味、逃走劇なのですが、観ているこちらも力が入ってしまいました。そして、その後の脱力シーン…。

絵づくりも奇麗だし、音楽は詳しくないのでわかりませんが、趣味がいいのは伝わってきます。いろいろな小ネタが挿入されているようですね。分かる奴だけ分かれば、それでいいという感じ。そして、それが分からなくても、妙な展開の青春映画として成立しているのがす凄い。青春映画の定番として、とにかく、よく走りますし。

結局、ずっとアラナは何者でもないんですよね。家でも出来の悪い末っ子、写真スタジオもアシスタント、その後のいろいろなドタバタでもヒロインにはなれない。ヒロインから落っこちたり、都合よく使われたり。ゲイリーにとっても自分が1番なのかどうか、まったく自信が持てません。

エンディングは、「このひと時は、確実に自分が1番」と言えるものでした。その先は、分かりません。わからなくていいのでしょう。そして、人生は続く、という感じでしょうか。