映画「わたし達はおとな」

 【全カップルが2人で一緒に観に行くべき】

大学でデザインを学んでいる優実は、チラシのデザイン依頼をきっかけに知り合った演劇サークルの直哉と同棲している。ある日、体調を崩した優実は妊娠していることに気づくが、お腹の子の父親は、直哉と別れていた時期に関係をもった男との子の可能性もあった。直哉にそのことを打ち明けることで、徐々に2人の気持ちはすれ違っていく…という物語。

 「わたし」や「おとな」がひらがな表記という点から、反語的に未熟な恋愛の話なんだろうなぁと予想しつつ鑑賞。思いのほか、地獄絵図でした。映画館という、逃げ場のない空間で見るのが最適な作品でした。

物語の骨格と、時制を行ったり来たりする見せ方は、かなり「ブルーバレンタイン」と重複しています。ただ、あちらは、出産・結婚後の倦怠カップルものであるのに対して、こちらは、そこまでも行っていない、本当に自分本位で未熟なカップルの話でした。

冒頭から、いきなり、藤原季節がイライラさせてくれます(褒めてます)。具合が悪い彼女に対して、気遣っているような言葉は掛けるが、自分は何もしないうえに、彼女に朝食の用意をさせる。これだけで「ああ、こいつは、ルックスの良さと、うわっ面の言葉だけで生きてきたんだな」と思わせてくれます(褒めてます)。

話が進むにつれて、彼のクズっぷりが、どんどん明らかになっていきます。妊娠をつげられて「おめでとう」って、いきなり他人事。喧嘩になったら、とりあえず謝るけれど、同時に、相手にも責があるように、トーンポリシングが巧みで、とことん詰める。自分は妊娠の可能性なんて考えずに避妊しないのに、出かけたものの具合が悪くなった彼女には「大人なんだから予想しろ」と責める。「グリーンピースを食べないと言っているのに、なぜ食べさせようとするのか?」と相手を責めるけど、「DNA検査をしない」という彼女には、しつこく検査をするように勧める。自分に甘く、相手に厳しい。ああ、挙げていったらキリがない(褒めてます)。

それで、彼女は、そんなダメ男に振り回される可哀そうなヒロインなのかというと、こっちはこっちで、やはりダメ女。彼氏と離れている期間に、よく知らない男を部屋に連れ込むのが悪いことだとは思いませんが、自分を守る術を知らないのは、明らかに未熟。医師にもやんわり注意されています。元カレのサトシからのプレゼントは、一度は断るものの、結局貰ってしまう。ワキが甘い。「出かけたい」とは言うが、どこに行きたいかは言わない。相手任せ。

彼氏との旅行で泊まったホテルが、友達と行ったことがあると言わないのはいいとして、自分の母が亡くなったことを彼氏には伝えないのは、どういうことなのか。彼氏は、それほどの存在ではないのか。あるいは、それが重荷になると思っているのか。そんなことが言えない相手でいいのか。DNA検査をしないのは、自分の子でないと分かったら彼が離れていくと分かっているからですよね。最初から彼のことは信用していない。そんな男に父親が務まると思っているのか。「夢を追いかけるイケメンを応援する彼女」ポジションが好きなだけなのではないか。だいたい、女の部屋から女の部屋に引っ越すような奴を、なぜ好きになるのか。もう、ワケが分からない(褒めてます)。

そんな感じで、ずっとイライラしながら観ていました。つまり、リアルなセリフと演技で楽しませてもらっているということですね。カメラワークも、極端にアップになったり、物越しに映したり、フレームから人物が外れたり、隠し撮りでもしているかのような、つまり盗み見ているような演出がなされています。

面白いのは、彼女が作っているチラシのデザインや、彼氏の演劇作品がどういうものかを、あえて観客には見せないというところ。そこはどうでもいいのです。もし、作品が良かったり、才能があったりしても、人間としてダメであることは変わらないということでしょう。

フォントのくだりや、後輩が客演しているのに公演には招待されていないといったところから、2人とも周りからはあまり認められていないであろうことが、想像できます。そう思うと、センスのない2人が、公演のチラシのデザインをお願いするところから関係が始まっているということが、さらに滑稽に思えてきます。

物語としては、もっとドロドロな人間関係になったり、参戦する人物が増えたり、えげつない言葉の応酬、なんなら刃傷沙汰になってもおかしくはないぐらいですが、そこは抑えられています。そういうドラマをめざしているわけではないってことですね。

そして、エンドロールがとてもいい! ここだけ観たら、何かのCMかMVかと思ってしまいます。あの地獄絵図の後とは思えない。この後、彼女がどういう結論を出すのかは分かりません。でも、誰かの決めたことではなく、何かしらの自分の結論を出すはずです。そして、人生は続いていく。まずは、ガシッと朝食を食べよう。そんなエンドロールでした。

あと1点、ドラマなどにはよくあるのですが、登場人物たちの経済的な裏付けがない生活というのが、気になってしまうことがあります。本作でも、学生には分不相応なマンションで同棲生活していますが、「親に家賃を出してもらっている」のひと言で、その問題を解消しているのは、潔いですね。