映画「さがす」

【さがしていたのは父なのか。その向こうにあるものなのか】

冒頭のシーンだけで、「これ、絶対、凄惨なことになるやつやん」と、期待させてくれます。福田監督作品が、あまり私の肌に合わないので、佐藤二朗には、今回の父親役のように、もっと振れ幅の大きい役をどんどんやってほしいですね。

懸賞金300万円の連続殺人の指名手配犯を見たという父親が失踪した。娘が父親の日雇い現場に探しに行ってみると、そこにいたのは父親の名前で働いている指名手配犯そっくりの青年だった…という物語。

ここで、私たち観客がまず想像するのは
「その指名手配犯に、父親がすでに殺されていて、なりすまされている」
「父親が、その指名手配犯に金を貰って、入れ替わって、自分は姿を隠している」
といったあたりでしょうか。でも、もっともっと複雑な背景と物語が、どんどん明らかになっていきます。

特に、見始めてから、最初に浮かぶ疑問「母親は?」に対する回答が、そうとうキツい。この母親不在の経緯と、指名手配犯の主張が重なるように、私たちには明確な答えを出すことのできない、重い問いかけとして、のしかかってきます。「岬の兄妹」では、貧困や障害といった問題をコメディに仕立て上げられていましたが、こちらは、ミステリー仕立てになっています。

登場人物のキャラクターも、ひとひねりがあって面白いですね。

特に、娘の楓は、自堕落な父親を反面教師にして、真面目で健気なヒロイン…とはなっていません。ドリンクの容器を人の家の玄関にポイと置き去る、小さな子どもがゼリーを欲しがっても交換してあげない…など、問題児とまではいかないけど品行方正とは言えません。警察もあてにならない、慈善団体も本当の意味で味方にはなってくれない、そして何よりも父親が頼りにならない、そんな環境でタフに生きなければならない彼女のスタイルなのでしょう。父親との関係性も、思春期らしく反発する一方で、失踪後は臭いと嫌がっていた父親の部屋で寝たりします。交換条件で父親捜しに同行させた少年が気になり始めて、嫌っていたラブコメ漫画を読み始めたり、かわいらしいところも見せてくれます。

この楓を演じるのが、映画「空白」でも少々難ありの父親の娘役だった伊東蒼です。この映画でも、彼女が全力で走るシーンがあって、この後、何かが起きるのではないかと、ヒヤヒヤします。誰か彼女に幸せな役をあげてください。

清水尋也演じる連続殺人の指名手配犯も、単なるサイコパスではありません。最後のアイスボックスのシーンでは「え? そうだったの…あらぁ」と、これ1つで人物像が複雑になっています。病院の屋上で語っていたことが、本心からの言葉なのか、あるいは詭弁なのか。そういう思いがあったことは確かかもしれませんが、それを超えてしまう自分の性癖に引っ張られてしまったのかもしれません。

気になったのは、母親の一件が、警察としてどう処理されていたのかというところ。彼女の状況から考えると、どう考えても1人では無理ですよね。警察が放置なんてことがあるのでしょうか?

見終わった後、「もしかして、娘はずっと前からおかしいと思っていたのではないか」という考えも浮かんできました。彼女が探していたのはその真相なのかと。母親と一緒の暮らしは決して戻らないし、父娘の関係も元のようには戻らない。でも、父が父であり、娘が娘である限り、ずっとラリーは続いてく。そういうことなのでしょうか。