映画「ディック・ロングはなぜ死んだのか」

【知らない方がいいこともある…のかな?】

バンド仲間のジーク、アール、ディックの3人組は、バンド練習ということで、ガレージに集まって、飲んだり吸ったりのバカ騒ぎをしていた。なぜかディックが瀕死の怪我を負ってしまい、ジークとアールは彼を病院の玄関に置き去りにして、その夜の出来事を隠し通そうとする…という話。

まずは、ふざけたタイトル。でも、これが伏線の1つになっているという。こんなタイトルなので、ドタバタのコメディなのかと思っていたら、かなり落ち着いたトーンで展開していきます。かといって、シリアスなわけではなく、確実にコメディで「これ、笑っていいやつだよね」という感じ。

バカ騒ぎの一夜に何が起こったのかという点で「ハングオーバー」、いきあたりばったりでどんどん状況が悪化していくという点で「ファーゴ」を思い浮かべながら見ていました。

その夜に何が起こったのか? 彼らが隠したかった秘密とは…というミステリー風に、話は展開していきますが、結構、早い段階で、検死結果から、ほぼほぼ明らかにされます。ただ、本当にそんなことが可能なのかは疑問です。そもそも実行する前に命の危険がありそうなのですが、チャレンジャーですね。実際の事件から着想したということですが、実際の事件も、やはり人が死んで、その原因がアレだったのでしょうか。

まあ、隠したいという気持ちは分かります。舞台は田舎町です。警察が動き出す前に、大怪我をさせられて病院に運ばれた人が死んだらしいって噂は、すでに流れていました。そんな町で彼らの秘密がバレてしまったら、暮らしてはいけないでしょう。

でも、これって田舎町だからってことではなくて、ネットを使って、世界規模で晒されたり叩かれたりするご時勢ですから、この恐怖感は誰にでもあるものなのではないでしょうか。

そして、秘密がバレると困るので、嘘を重ねては、すぐそばからボロボロと崩れていくというのも、実際に、ありそうな話です。秘密の大きさ・深刻さは別として、小さい頃から誰しも心当たりはあるのではないでしょうか。

この映画は、それをデフォルメして、いかに酷い事態になるかを増幅して見せているということでしょう。もう、それだけの映画と言ってもいいかもしれません。

それにしても、彼らの隠蔽工作が、あまりにも行き当たりばったりで杜撰。そんな時に、冷静に隠蔽計画が作れるような、根っから悪い人間ではないということなのでしょう。その危うい工作を、イノセントなひと言でぶち壊す娘シンシアが、とてもかわいい。そして、娘がかわいいから、脅したり、怒ったりもできずに、ただただ崩れていくという。やはり、悪い奴ではなさそうです。

ジークがボロボロになっていくのに、アールの方は結構呑気なんですよね。最初こそ、さっさと街から出ようとしますが、焦りはありません。実は、早い時期に彼女に真相を話していたんじゃないかと推測しています。それが、ジークとアールの違いなのではないでしょうか。

そう考えると、キャッチコピーの「知らない方がいいこともある」とも言い切れないものがありますね。奥さんは知りたくなかったでしょうが。