映画「パラサイト 半地下の家族」

夫婦と息子・娘、4人が4人ともまともな職を持たず、半地下の安い部屋に住むキム一家。息子・ギウが留学する友人の代打でまずは家庭教師として雇われたのをきっかけに、家族が身分を偽って、いろいろと工作しながら、運転手や家政婦として、次々とその金持ち一家に入り込み…というお話。

前半、面白いくらいトントン拍子に彼らの計画は成功して、裕福なパク一家に寄生することに成功していきます。ちょっと話がうまく行きすぎだと思ってしまいますが、「その分、きっと後半でしっぺ返しがあるのだろう」と期待が高まります。

そして、金持ち一家がキャンプに出掛け、パラサイト生活を最高潮に満喫しているその瞬間から、後半の展開が始まります。これが、とても意外な方向に話が展開していくので、これ以降は伏せておきます。

その他のところで、いくつか感想を。

まず、キム一家とパク一家のそれぞれの住環境が、とても象徴的。パクの邸宅に向かうときには、上へ上へと昇っていきます。半地下の部屋に戻る時は、どんどん降りていきます。雨が降れば、雨水は上から下へと流れていく。山の手の家ならば雨が降ってもどんどん下に流れて綺麗になりますが、半地下の家にはどんどん汚れた水が溜まっていく。住んでいるところの上下がそのまま格差になっているんですね。しかも、キムの半地下の家の中では、トイレが天井近くの高いところにあるんです。これは、配管の位置関係で、その高さじゃないと汚水が流れていかないってことだと思いますが、「トイレより下の生活」ということが見事に表現されています。

しかし、キム一家の面々は、それほどダメな人間たちではないのです。息子ギウはソウル大学の学生だと偽ってもバレない程度には勉強ができる。お金がないから大学受験用に塾・予備校に通えないから大学に行けないってことなんだと思います。娘・ギジョンも在学証明書を偽造できる程度のグラフィックのスキルがある。母親は元アスリートでハンマー投げのメダリスト。父親は起業をするものの、うまくいかずに何度か職を変えて現在の状況になっているようですが、家族から軽んじられているわけでも、疎んじられているわけでもない。「それでも、この状況から脱するには足りない」っていうところが、格差が固定される社会ってことなのでしょうね。

そして何より、偽装がバレるかどうかのキーになるのが、どんなに知識や教養を身に付けようが、どんなに着飾ろうが、どうしたってごまかすことのできないポイントというのが残酷でいいですよね。これは、本人たちは、まず気づかないポイントでもあります。映画では伝わりづらいものですが、でも上か下かでいえば、下の生活をしている私としては、よく分かります。

何度も「計画」って言葉が出てきますが、いかにそれが難しいかを痛いほど知っているのが、父・ギテクなんですよね。実際、事業に失敗しているのですから。どんなに素晴らしい「計画」があっても、それだけでは成功しないのが、彼らの社会なのでしょう。それでも、どうしても希望の持ちようがない日本の社会に比べれば、まだ息子・ギウが希望を持っているだけ、彼らの社会の方がポジティブなのかもしれません。

ちょっと、もったいないな…と思えたのが、パク一家の末子ダソンの存在。彼のカブスカウトの経験が、もっとドタバタを加速させるのかと期待していたのですが、あまり絡んでこなかったんですよね。どちらかというと、「ギウとの対比」という位置づけのようでしたね。