映画「イエスタデイ」

ある日、世界的な停電が起こり、そのタイミングで交通事故にあった売れないミュージシャンが目を醒ますと、自分以外はビートルズが存在しなかった世界になっていた…という話。 アイデア一発といえば一発で、かなり強引ではありますが、いい感じのお話になっていました。

主人公ジャックは、うろ覚えのビートルズの名曲たちを一生懸命思い出しては、自分の曲として発表していき、どんどん人気者になっていきます。ジャックが、熱心なビートルズファンだったり、コピーバンドとかをやっていたというわけではないというところがいいですね。ファンではなくても、当たり前のように弾けたり、歌えたりできるという状態からの、その存在が消えるというところに面白みがあります。熱狂的なファンだったら、自分の曲として発表することに大きな躊躇があったかもしれません。

普通にこの先の展開を予想すると、「実は、ビートルズの存在を記憶しているのは、ジャックだけではなかった。人気が出てきた時点で『盗作だ!』と発表され、一転して破滅の道へ…」みたいな流れを想像してしまいます。

もちろん、主人公ジャック自身も、その恐怖に怯えることになります。

しかし、その後の展開は、「おぉ! そうなるのか!」というものでした。特に最近ネットでよく見かける「自分とは関係のない他人が得することが許せない」症候群に、自分も多少は侵されていることに気付かされて、とてもショックを受けました。

その1点だけでも、価値ある映画でした。 

実は、世界に存在しなかったことになってしまったのはビートルズだけではなかったのですが、それがギャグ要素としてしか働いていないところが、ちょっと残念でしたね。 ビートルズだけではなく、あるバンドも消えてしまったのですが、これは彼らがビートルズの影響を強く受けすぎているためですよね。そう考えると、ビートルズの影響を受けていないミュージシャンなんているのか?とも思います。いや、音楽だけではないですね。作品中ではiPhoneが使われていますが、それを作っている会社は「Apple」という名前ではないでしょうね。 

消失してしまったもの、残っているものに、何かしらの意味があるのか、ついつい考えてしまいますが、そこまでは深く練られているわけではなさそうです。それなら「ビートルズだけが消失した世界」で充分だったのではないでしょうか。

一方で、オリジナルのビートルズのものを模倣したクリエイティブが、レコード会社のスタッフ達にことごとく否定されているところは面白かったです。ビートルズの曲は普遍かもしれないけど、決してそれだけで売れていたわけではなくて、やっぱりその時代にあったプレゼンテーションがなされていたということでしょう。ちょっとレコード会社側が間抜けな悪役っぽく見えますが、やはり、時代が変われば、パッケージングも変えていかないといけないというのは、間違ってはいないんだろうとは思いますよ。

ラブストーリー部分は、まあ、ベタっちゃあ、ベタですね。 あと、ギャビン。お前、いい奴過ぎるけど、すぐ隣に次の彼女的な存在がいるのは、どうかと思うぞ。