映画「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」

タランティーノ監督の作品は、私自身そこまで映画に詳しいわけではないので、「面白いんだけど、3分の1も楽しめてないんだろな」と、いつも思ってしまいます。 

「Once upon a time…」という言い回しは、中学の英語でも習いましたが、日本で言えば「むかーし、むかし…」というやつ。昔話、おとぎ話の冒頭、お決まりのフレーズですね。でも、本作は、時代が明確で1969年です。そして、実在の人物も出てきます。「でも、おとぎ話ですよ」ってことなんだと思います。少なくとも、「事実を基にしたフィクション」というレベルではないフィクション。

ピークを過ぎたTVドラマ俳優リック・ダルトンと、彼の付き人兼スタントマンのクリフ・ブースという主役2人は架空の人物ですが、もう1人のメインキャストであるシャロン・テートは実在した女優。 そのシャロン・テートの身に起きた事件を知っておかないと、本作は十分に楽しめない作りになっています。私も、いろいろな事件を再現ドラマ的に扱ったTV番組で見たような記憶があるぐらいで、それも「ポランスキーの妻」として認識していた程度でした(まあ、ポランスキー自身も、いろいろある人ですので)。

観客は、1969年のシャロン・テートに何が起きるかを知った上で、そこに主役の2人がどう絡んでくるのかを緊張感を持ちながら待ち構えることになります。ちゃんと「嫌なことが起こりそうな、不穏な空気」のシーンもいくつか用意されています。「複数のドラマが別々に並行して流れていって、それが、ある時偶然居合わせて…」というのは、タランティーノ作品の定番ですね。これがあるので、160分の長尺を引っ張ることができています。逆に言うと、それがなければ、ラストまでは、大きなドラマがないまま、数日間のハリウッドの様子が延々と流れていくだけなので、もしかしたら、退屈な時間になってしまうかもしれません。

それでも、1969年のハリウッドをバーチャル的に経験するという楽しみはあります。 

レオナルド・ディカプリオが演じるリック・ダルトンは、TVの西部劇で人気が出たものの、そこから上手く方向転換が出来ずに頭打ちになっている俳優。イタリアの西部劇に活路を見出そうというところは、まんまイーストウッドですね。「大脱走」の主役をマックイーンと争ったというエピソードも出てきて、当時のいろんな俳優をモデルとしてミックスしているようです。

ディカプリオ自身、人気はあるものの、なかなか映画人からは評価されてこなかった俳優で、一時は休業説も流れていたぐらいですから、自身の演技やキャリアに対する苦悩というのは、重なるところがあったのでしょうね。まあ、リックは、台本を覚えてこないとか、いろいろダメなところは自業自得的にダメなのですが。

やたらとカッコいいのが、ブラッド・ピットが演じるクリフです。俳優としては芽が出なかったスタントマンですが、贅沢な暮らしを送りながらも仕事に悩むリックよりも、むしろ自由というか、泰然としています。もし、リックの付き人兼スタントマンの仕事を失っても、なんとでも生きていけそうな感じは、大戦の勇者ゆえの「生きてるだけで丸儲け」観でしょうか。何よりも、Tシャツにジーンズが、まあ似合うこと。彼のおかげで、アメカジが復活しちゃうんじゃないかと思うぐらい。アンテナ修理では、屋根の上でなぜか裸になってサービスをしてくれます。

そして、マーゴット・ロビー演じるシャロン・テートが、自分の出演作を映画館で鑑賞するシーンは、本作でも最も多幸感が溢れていました。あれは、たぶん、俳優あるあるのでしょうね。もちろん、その後にシャロン・テートに起こることを頭に思い浮かべながら見るから、さらに際立つわけですが。

そして、本作には、もう1人、印象的な俳優が登場します。子役のトルーディです。演じるジュリア・バターズはまだ10歳ですが、可愛らしさがエゲツないです。トルーディのように真摯に仕事に取り組んでいってほしいものです。もしかしたら、現実のシャロン・テートが進むことができなかった映画スターへの道を行く者として、彼女がキャスティングされているのかな、と思ったりしたのでした。