第30回全国高等学校総合文化祭優秀校東京公演(8/24国立劇場)

演劇は、学生時代からちょこちょこ観てきましたが、高校演劇に興味を持ったのは、ももクロの映画「幕が上がる」がきっかけです。 今回、全国高等学校総合文化祭の優秀校の東京公演(国立劇場)の入場整理券を譲っていただきましたので、8月24日の公演を観てきました。

演劇だけでなく、日本音楽、伝統芸能の優秀校公演もあります。


日本音楽は、東京の創価高校、和歌山の橋本高校ともに筝曲でした。

琴といえば、正月の旅館の館内BGMで流れているのような曲しかイメージできないボンクラな私としては、「琴すげぇ」としか言いようがないものでした。一種類の楽器で、押したり、つまんだり、弾いたり、たわませたり、強く弾いてパーカッションのような使い方をしたり、ものすごく表現の幅が広くて、重層的な演奏ができるということを、恥ずかしながら初めて知りました。もう、ハンス・ジマーに琴だけで映画音楽作ってみてほしい。


伝統芸能は、大分の由布高校による庄内神楽と、南多摩中等教育学校による太鼓。

幕が下りた後の観客席のざわつきは、この庄内神楽が一番だったのではないでしょうか。「えらいものを観てしまった」感。台詞は冒頭の掛け合いのみで、あとは、ひたすら舞と演奏です。もともと神事ですから、ある種のトランス状態にもっていくような、度を超した熱量の舞と演奏でした。終盤、なぜかわかりませんが、涙が溢れてきました。

南多摩中等教育学校の太鼓は、八丈島の太鼓をアレンジしたものだそうです。楽器の演奏というだけでなく、歌や掛け声、個々のポージング、フォーメーションの変化などなど、全てを含めての芸能パフォーマンスですね。アガります。


そして、演劇です。 北海道の帯広北高校と、鹿児島の屋久島高校の2校。

帯広北高校「放課後談話」 は、男子高校生2人の放課後ダイアローグということで、「セトウツミ」っぽい雰囲気。周りの人の言葉や行動を、斜め後ろから分析してるところなんかも、共通している気がします。

この話は、昨年の帯広北高校の演劇部そのままとのこと。全国大会出場を決めた昨年の生徒たちは、自分たちのことをそのまま舞台にしたわけですが、今年の生徒たちは、先輩たちの話を自分たちのリアリティで演じるわけですから、それはそれで難しいものがありそうです。

部員がいなくなって行き詰っている演劇部員・賀来と、部活を引退した元弓道部員・松下の2人の会話が延々続きます。2人の中で、対になるセリフがあったことに気づきました。 それは…

松下の「大丈夫です」
賀来の「大丈夫じゃない」

松下の「大丈夫」は、明らかに大丈夫じゃない。賀来が素直に「大丈夫じゃない」と吐露して、それでも何とかしたいと動いている姿を観て、松下が自分との違いに気づいたからこそ、演劇部が動き始めたんでしょうね。最後のセリフは、少年マンガのようなベタなひとことですが、それは格好をつけたわけでもなく、心の底からそう思って出たひと言だったんじゃないかと思ってしまいます。

屋久島高校「ジョン・デンバーへの手紙」 

これはズルい、台本がズルい(褒め言葉)。

屋久島高校教員の実話をベースにした物語を、同校の生徒が演じるのですから、昨年の最優秀校丸亀高校の「フートボールの時間」に通じるものもありますね。もちろん、それを消化して表現する生徒の力があってのことです。

冒頭は、カントリー歌手ジョン・デンバーへの手紙を書く3人の青年。その3人が誰なのか、何のために手紙を書いているのか、明確に語られません。物語が展開していくと、徐々にそれが分かっていくという構造。つまり、この舞台がそのまま「ジョン・デンバーへの手紙」なんですね。私たち、観客は、ジョン・デンバーとなって、この手紙を読み、その手紙に自分はどう返事をするかを考えるわけです。 

顧問の先生の作とのことですが、先生の思いは英語の泊先生に投影されているんじゃないかと思いました。主人公の大山先生の主張が世間に広まるのを応援するのと同じように、生徒の声、生徒の表現が広がっていくことを全身で支えているのでしょう。

終演後のインタビューでは、自分たちの芝居が褒められることよりも、「屋久島に行ってみたくなった」というひと言が観客から出たときに、1人の女子部員が涙をこぼしていたように見えました。そういうお芝居でした。