映画「芳華-Youth-」

スチル写真を1枚見ただけで、「これは良い映画に違いない」と感じる作品が、たまにあります。本作がまさにそれ。 

HOUKA -youth-

イントロダクション&ストーリーキャストスタッフphoto劇場情報予告チケット ヴェネチア、トロントなど数々の映画賞を獲得した巨匠フォン・シャオガン監督最新作 チャン・ツィイー主演「女帝エンペラー」(06)や「戦場のレクイエム」(07)「唐山大地震」(10)などを手がけ、これまで中国国内最大の映画賞である金鶏百花奨を5回、ヴェネチアやトロントでも受賞歴があり、ハリウッドのエージェント会社CAAとも契約、今や中国を代表する巨匠フォン・シャオガン監督が、軍の歌劇団である文芸工作団(=文工団)に所属した自らの若き日の記憶をよみがえらせ、同じく若き日に文工団に所属し、「シュウシュウの季節」「妻への家路」で知られるゲリン・ヤンの原作をもとに、満を持して映画化した本作。中国で公開されるや2週連続1位を獲得し、1ヶ月で興収230億円という爆発的な大ヒットを記録、文芸ドラマというジャンルにも関わらず年間興収ベスト10入りを果たし、国内の映画賞を席巻、のみならずアジアのアカデミー賞と呼ばれるアジア・フィルム・アワード最高の最優秀作品賞に輝いた。 4000万人が涙した、美しく切ない青春ラブストーリー 1970年代の中国- 激動の時代に軍歌劇団として前線で生きる若者たちがいた 4000万人が涙した、美しく切ない青春ラブストーリー 1970年代の中国- 激動の時代に軍歌劇団として前線で生きる若者たちがいた 物語は、軍で歌や踊りを披露し兵士たちを時に慰め時に鼓舞する役割を担う文工団に、17歳のシャオピンがダンスの才能を認められ入団するシーンから幕をあける。周囲となじめずにいる彼女の唯一の支えは、模範兵のリウ・フォン(ホアン・シュエン)。しかし、時代が大きく変化する中、ある事件をきっかけに、二人の運命は非情な岐路を迎えるー。何十年にもわたる関係を軸に、文工団の若者たちの初恋と交錯する想いが、心に沁みる美しい音楽と踊りに彩られ、描かれる青春ラブストーリー。 シャオピンを演じるのは、純粋でまっすぐな眼差しが印象的な新星ミャオ・ミャオ。シャオ

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なんだか、いいですよね。 別に「美人の水着だから」というわけではないですよ。何か「こういうものを見せたい」って思いが伝わってくるんですよ。

ひとことでいうと「時代の激しい波に翻弄される、若者の美しくも悲しい群像劇」です。 

群像劇なので、まずは人物把握が大変でした。同じアジアでも海外のものだと、とたんに誰が誰だか分からなくなっちゃうんですよね。しかも、芸能部隊なので、みんな顔立ちが整っていて、さらに判別が難しくなっている。一応の主人公であるリウフォンとシャオピンでさえあやしい。

それでも、いろいろなエピソードが重なっていくと、キャラクターも分かってきます。「あれ? このナレーターは誰の目線で語っているんだ?」とかも気になってきます。そこも後の展開のためには重要です。

シャオピンの境遇は厳しいですね。彼女の実父は、「労働改造中」なのだそうです。「改造」…なんだか禍々しい響きです。つまりは、反共産党の思想を持つ者を収監して強制労働ということなのでしょう。後から分かりますが、そんな彼女にとって、軍に入隊するということは、自分の人生を変える一世一代の大勝負なわけですね。

軍とは言っても、芸能部隊である文工団は男女混合で、ずいぶん緩い雰囲気です。戦闘訓練などもありますが、ほとんど全寮制高校のようなノリです。そうなると、当然、恋愛沙汰や友情、若気の至り、マウンティングの取り合いに仲違い、嫉妬にイジメ…まあ、全部盛りです。

シャオピンは、出だしからつまずいてしまいます。模範兵として皆から慕われているリウフォンも大きな挫折をしてしまいます。でも、それぞれ原因を作ったのは自分自身です。善悪を一面的に描いていないところもいいと思いました。ディンディンがやったことも、「このままだと、自分が完全に悪者にされてしまう」と思ってしまったのでしょうから、賛成はできませんが理解はできます。どこかでちょっと歯車がズレてしまって、どんどん悪い方向に進んでしまう感じです。

リウフォンとシャオピンは、全く違う性格ですが、「器用には生きていけない」というところは共通していたのでしょうね。

物語の折り返し地点である高地での公演のシーンでは「え? そこを映像にしないの? どうして、どうして?」と思ってしまいましたが、ずっと後になって、「まあ、そうか。あれでよかったのか」と思えるシーンが用意されていました。

後半は、一転して、戦争スタートです。ワンカット・ワンテイクでの撮影だと思われる戦闘シーンは圧巻。凄惨な描写に容赦がない。しかも、敵が描写されず、どこから狙われているのかさえ分からない、ゲリラ戦の混乱と恐怖感が倍増です。

これは、中国としては、あまり触れたくないであろう中越戦争ですね。映画の中では、勝った負けたではなく、「戦争が終わった」ということになっていますが。カンボジアに侵攻したベトナムに対して、兄貴分としてお灸をすえてやろうとしたら、ベトナム戦争でアメリカを相手に実戦を積み上げたベトナム軍に返り討ちにあって撤退せざるをえなかったという戦争です。今でも領土問題を引きずっています。この戦争は、アメリカにとってのベトナム戦争と同じように、中国にとって、癒しようのない傷になっていることでしょう。

「ああ、こうやって、終わっていくのか…」と思っていたら、その後もどんどん話が進んでいきます。これも、ひとりひとりでは抗うことのできない時代の流れを感じます。それでも、時代は進んでいき、人生も続いていく。

表現の統制が厳しいであろう中国において、ここまでの作品が作れるというのは驚きでした。