映画「夜明け」

事故で妻と息子を失った哲郎(小林薫)のもとに、後悔の自責の念を隠し持つ正体不明の青年シンイチ(柳楽優弥)が転がり込んできて…という話。西川監督の「永い言い訳」といい、本作といい、是枝監督の弟子筋の監督たちは、なぜか師匠が取り組んできたテーマ「家族」に果敢にチャレンジしてきますね。

擬似家族として心を開きながら、お互いの傷を癒していく物語かと思いきや、どうも不穏な空気が増していきます。「ディストラクション・ベイビーズ」を観ているので、彼が何かやってしまうのではないかと、ハラハラしながら見ていました。

部屋で免状を見つけてから、仕事に取り組む態度が変わるところ。他人の家のタオルを使うことを躊躇して自分の服で水気を拭いてしまうところ。電話での母親の態度。髪の毛を染め直すところ。台詞ではないところで、シンイチの心情や、関係性が見えるところが、とてもよかったです。

なぜ自分がこの町にいるかを、最初にシンイチが洗いざらいしゃべっていたら、最初に想像していたようなハートウォーミングな展開になってたのかもしれません。それができずに、自分で抑え込んでしまうのが、シンイチという人間なのでしょう。

純粋に世話してくれていることへの感謝や、期待に応えたいという思いもありながら、息子の姿を投影されることへの戸惑いがあったり、やはり自分の親と同じように進路を押し付けようとすることへの拒否感、本当のことが言えないことへの負い目、いろんな感情に縛られてしまったのでしょうね。

ラストシーン。彼が選択した道は、とてもとても厳しいものがあると思います。でも、それを選ぶことができたのは、哲さんとの日々があったからこそでしょう。かすかな希望の光が見える、大きな一歩だと思います。