映画「パッドマン 5億人の女性を救った男」

社会が抱える問題を訴える映画はたくさんあると思いますが、本作は「社会問題の解決」映画でした。 

インドの田舎で新婚生活を送る男ラクシュミが、貧しくて生理用品を買えずに不衛生なボロ布を使っている妻のために、安価なナプキンを手作りする。しかし、男性がそんなことに関心を持つこと自体タブーであるインド社会においては、彼が研究開発を進めれば進めるほど周囲からは異端視され、やがて、村を追われることになるが…という話。実話がベースになっています。 

ポスターの、なんだかハッピーな絵柄からは想像できない、なかなか重いテーマを扱った映画です。でも、それでもコメディです。いろんな感情が、混ぜこぜになります。

まず、冒頭のミュージカルシーンから引き込まれます。インドの風景、結婚式から彼の妻への愛情、ユーモア、そして溢れるDIY志向、この物語の大前提がしっかりと描かれています。この時点で「この映画は面白そうだ」と思えます。 

起業家と呼ばれる人たちには、良い意味でも悪い意味でも、独善的であると、私は思っています。ラクシュミも、「ボロ布は不衛生。みんながナプキンを使えるようになればいい」という信念は何も間違ってはいないのですが、それを妻や家族、村の人々がなぜ受け容れられないかを考えることはなく、ひたすら行動する。そこにはちょっとイライラしてしまうところはあります。

そこで登場するのが、都会で経営学を学んでいる女性パリー。パリーとは「妖精」という意味らしいですが、まさにお伽噺で主人公を導く妖精のような役割ですね。ファンタジーな見方をすれば、ラクシュミの想い描く将来が実現して、女性が「生理は不浄」という因習から開放された世界よりの使者のようにも思えます。あるいは、ラクシュミのことを愛し、理解しつつも、因習に束縛される妻ガヤトリの、別世界の姿なのかもしれません。

ただ、観客にとっては、パリーが完璧すぎる(超絶美人だし)ので、彼女の方に気持ちを持っていかれて、ちょっと妻ガヤトリの分が悪くなっちゃいますね。彼女は彼女で、夫のことをギリギリまで理解しよう、信じようと努めてはいるんですけどねぇ。

パリーとタッグを組んでからの展開は、どんどんドライブがかかって、ワクワクがとまりません。ただ「ナプキンを広める」というだけでなく、女性の自立や地域振興といった大きな社会問題もまとめて解決しようと動き始めます。ブラボーです。 

これが、50・60年前とかの話ではなく、小学生がGoogleを使う2000年代の話だというのですから、驚きです。でも、考えてみると、今の日本においても、ナプキンこそ普及はしていますが、生理に対する理解や社会的な認識については、実は大差ないんじゃないかなとも思います。ナプキンを買った時に、なぜかそれだけ他の商品とは別に隠すようにパッケージされる。映画の中で、まるで禁制品のようにカウンターの下で手渡されるのと、変わりないと思ってしまいます。

主人公の名前が「ラクシュミ」と、モデルとなったアルナーチャラム・ムルガナンダムさんから変更されていることから、かなりの脚色があるのだと思います。「ラクシュミ」とは女神の名前ですから、男性につけるのは変なような気もしますが、「美と富の女神」だそうですから、確かに、そういう存在ではありますね。スーパーマンやスパイダーマンは、女性を貧困と不衛生から開放してくれませんが、パッドマンはやってくれますから。 

ただ、サブタイトルには、若干の誇張がありますね。「5億人の女性を救った男」となっていますが、現在のインドでの女性の生理用ナプキン使用率は都市部でも3割程度とのこと。
特集:女性の経済エンパワーメント生理中でも制限のない輝きを(インド)  

つまり、まだ5億人の女性みんなが救われているわけではないのです。

「だから、ダメ」ということではありません。本作のようにタブーを扱った映画が公開できるということは前進している証拠ですし、さらに、この映画がより多くの人に見られることで、ナプキン使用率が上がるはずです。

まさに、この映画のプロジェクト自体が、アルナーチャラム・ムルガナンダさんの志の一旦を担っているということだと感じました。