映画「THE FIRST SLAM DUNK」

【純バスケ映画としての再構築】

 高校時代に週刊少年ジャンプをフェードアウトした私は、原作をまったく読んでいなくて、もちろんTVアニメも見ていません。それでも、物語の大筋や、どんなキャラクターがいるのか、劇中の名言などは、読んでもいないのに知っているのですから、そこはやはり大人気作品ですね。

ということで、TVアニメ版から声優を一新したことで批判があったことは知っていましたが、「TVアニメの映画化ではないのだから、別に問題ないでしょ」程度の感覚でした。まあ、前売り発売前に公表しておくべきだったとは思いますが。

一緒に観に行った連れ合いは、原作もアニメも見ているので、帰り道に原作との違いをいくつか確認した上で、私の感想は「かなり難しいことに挑戦していて、それは成功している」

まずは、軸になるキャラクターが変わっているところ。さすがに、私でも原作では誰が主人公なのかは知っています。「え? そういう感じなの?」と驚きました。他のキャラクターたちも、ある程度知ってはいたので、観ながら「もしかしたら、彼は、原作では、あまりエピソードが語られなかったのかな?」と思い始め、後から連れ合いに確認したら、その通りとのこと。

彼以外のメンバーの人物像は、あまり語られていません。それでも、試合の流れの中で、時折、ドラマパートとして各メンバーの過去のエピソードが挿入されていきますので、原作を読んでいない私のような者でも、「こんなことがあったんだろうな」と想像しながら、ある程度は把握できます。そして、それぞれが、試合の中で、少しずつ変化していく姿が、しっかりと描かれています。原作を読んでいる人に対しては、「お前ら、もう知ってるよな」という感じですね。

また、少年漫画的な、ギャグや恋愛エピソードなども抑えめ。ずいぶん大人なSLAM DUNKになっています。かつて原作に熱中した読者に向け、みんなが喜びそうなエピソードをかいつまんで、ダイジェスト的な2時間の映画作品にすれば、それはそれでヒットしたでしょうが、あえてそれはしなかったということでしょう。人気作なだけに、これは勇気が必要なこと。原作者だからこそ出来る、大きな転換です。

また、現実のバスケ界では、本作を読んでいたような世代の選手が、実際にNBAに挑戦するという時代になりました。日本人初のNBAプレイヤーが田伏雄太であったということを考えると、本作の改編は、彼の活躍をフィードバックしたものとも言えそうです。

少年漫画として人気を得るために必要だった、ヤンキー要素や恋愛要素、ギャグ要素をそぎ落としていったら、やはりバスケ映画になりましたということでしょう。それこそが、もともと作者が本作で描きたかったことなのでしょうね。「安西先生、バスケが描きたいです」と。

そして、予告編を観た時に「え? このレベルの絵で2時間やるの?」と思ったビジュアル表現。「漫画の絵をそのまま動かしたい」ということなのだと思います。これは、ある意味TVアニメ版の否定にもなりますので、このあたりもアニメから入った方には気に障るかもしれません。でも、スパイダーバースとはまた違った形で、観たことのない圧倒的なビジュアルです。

モーションキャプチャでCGを動かしているのだと思いますが、その上に、アニメ的なベタな着色ではなくて、透明水彩で色付けしたような絵が動いていくのです。最初は「あまり質量が感じられない」と違和感があったのですが、ここぞというシーンでは、モーションキャプチャそのままではなく、かなりデフォルメが加えられているようで、本当に動く漫画のようでした。実際のバスケの試合を見ているように、入り込んでしまって、「入れ!」と念と力が入ってしまいます。

ということで、誰にとっても「初めて観るSLAM DUNK」という意味での「THE FIRST」ですね。