映画「ドント・ルック・アップ」

【おバカは大好きだけど、愚かにはなりたくない】

Netflix映画ですが、劇場で鑑賞しました。

約半年で地球に衝突する彗星を発見した天文学博士と大学院生が、その事実を大統領に伝えるが、とにかく中間選挙が大切な彼女はまともにとりあわない。ならば、メディアで公表しようとするが、やっと取り上げてくれたモーニングショーで、真剣に取り上げてくれない。番組を観た人々も、ネタとして消費していく…という話。

「SF社会派コメディ」ということになるのでしょうか。

同じアダム・マッケイの「マネー・ショート」も社会派コメディとされていますが、もっとギャグを詰め込んで、笑いに振っている感じです。しかも、レオナルド・ディカプリオ、ジェニファー・ローレンス、メリルス・トリープ、ジョナ・ヒル、ケイト・ブランシェット、マーク・ライアンス、ティモシー・シャラメと、主役級の俳優を揃えて、みんなノリノリで笑わせに来ます。ああ、贅沢。でも、もっともっとエゲつなく笑いに持って行ったほうが、事態の深刻さが際立ってよかった気もします。

メリル・ストリープの大統領は明らかにドナルド・トランプですね。ある意味、清々しい。新聞社やTV局などメディアの描き方も酷かった(褒めてます)。自分たちにとって何が大切だと思っているかを、ある意味、正直に語っています。すくなくとも「報道」をするつもりはない。

大統領を支援するテクノロジー企業のCEOイシャウェルも、特定の誰かに似せているというわけではないけど、「こんな人いるよね」という絶妙な描き方。教授との舌戦は見事で、相手からの質問には答えることなく、自分が言いたいこと、何やら良さげな話を滔々と語り、全然関係のない話で相手を攻撃する。確かに、こんなシーンを現実で見てきたな、と思っちゃいます。

では、リベラルに偏った映画なのかというと、そうでもありません。特に、アリアナ・グランデ演じる歌手ピーナによる、なんだか的が外れているコンサートなど、何の解決にもならない欺瞞として描かれています。

「この映画を観て、誰に一番ムカつくか」で性格診断ができるんじゃないかと思ってしまいます。ちなみに私は、大統領首席補佐官のジェイソン。なんだかんだで、大統領やイシャウェルは、何かしらの能力はあって、魅力的な一面もあるのだけれど、あのバカ息子だけは害しかない。ドラマとしては確実に笑いをとれる存在ですが。

また、ミンディ博士を「正しいことを貫く人」とは描いていないところも、いいバランスです。軽く流されてしまう、危い人物です。

人類の危機的な状況は、現在のコロナ禍を連想させますが、すでに2019年に映画制作が発表されています。ジェニファー・ローレンス演じる大学院生ディビアスキーは、グレタ・トゥーンベリを思わせますので、おそらく気候変動に対する、経済最優先の社会、環境を訴えても票にならない政治、危機を訴える人への誹謗や嘲笑といった状況がモデルになっているのだと思われます。

ただ、彗星衝突と気候変動では違うことがあります。彗星衝突に対して、私たち1人1人ができることは限定的です。時間も限られています。でも、気候変動は徐々に変化していき、私たち1人1人が関与できることも多々あります。そして、彗星なら見上げれば目にすることができるけど、気候変動は直接見えるものではありません。

この映画では、一般の人々があまり出てきません。コラージュ的に映し出されたり、博士たちの話を聞いた人々が暴動状態になったり、荒らされた後のスーパーが映し出されたりという程度。

これは、「一般の人々というのは、今、そこに座っているあなた」ということなのでしょう。「さあ、今のところ彗星は発見されていませんが、すでに、いろいろな危機的状況はありますよ。どうしますか?」ということなのだと思います。