映画「明け方の若者たち」

【マジックアワーで輝くのは空。その後は、自分で彩るしか】

「花束みたいな恋をした」「街の上で」「僕たちは大人になれなかった」など、最近、新宿や渋谷を中心とする沿線が舞台で、サブカルをからめた青春映画が多いですね。「東京城西・若者映画」とでも呼びましょうか。

本作も、その1つです。

ミッドポイントで、劇中の人物には周知のことで観客には知らされていなかった、ある秘密が1つ明らかにされます。そのことで、「あの時のセリフは…」とか、「あの時の表情は…」とか、いろいろと観返してみたくなるのですが、それ以外の展開や掘り下げは、やや物足りないかな、と感じました。

特に、彼女側の描写が足りないと思っていたら、アナザーストーリー『ある夜、彼女は明け方を想う』がAmazonPrimeで配信とのこと。「なんだよそれ」とは思います。

それはともかく、彼と彼女のやりとりの不自然なぐらい自然な感じはとてもいいです。アドリブかと思うぐらい。話の内容には特に重要な意味はなく、やたらと尺が長いのですが、それが2人にとっては、とても特別なことだということが、後々響いてきます。

就職が決まって「自分たちは勝ち組」と堂々と言ってしまう同級生ほどには浮ついていないけど、自分の手で何か大きなことをやってやろうとは思っている彼。だからこそ、「僕と一緒にいた方が楽しいかもよ」なんて、言えてしまう。それは特別なことではなく、誰もが感じるもので、「こういう万能感あるよなぁ。これがなきゃ、仕事や恋愛なんて怖くて飛び込めないよな」と思います。本当にそう思っているかどうかは別として、自分の背中を押すためにも、こういうセリフを口にしてしまうことって、あると思うのです。

しかし、思っていた自分には、全然なれない。いや、「思っていた」というより、最初からそう簡単にはいかないことも分かっていたはず。それでも、可能性を信じていたはず。でも、仕事も恋愛も、自分だけが取り残されているような気持ちになってくる。なんだか、劇場で流れるJTのCMを観ているようでもありました。20代から30代前半の方が観られたら、もっと刺さるものがあるのかもしれないですね。

作中に「マジックアワー」というキーワードが出てきます。日の入り、日の出のタイミングで、太陽は出ていないけど空が彩り豊かに照らされる、わずかな時間のことです。そこから「人生で最も輝かしい瞬間」という意味で使われているのだと思います。でも、マジックアワーで輝いているのは、あくまでも空であって、自分自身ではないんですよね。その時間を過ぎてしまったら、日中の強い光に照らされている時間であれ、深い闇の時間であれ、自分自身が輝いて、彩りのある生き方をするしかないってことなのではないでしょうか。

お仕事モノとしては、「総務=非クリエイティブ=つまらない」で終わらせずに、総務としての仕事がちょっとだけ認められて、そこで新しいプロジェクトを案内される、みたいな展開があってもよかったかもしれません。

ところで、「押印は左に傾けて」なんて会社、いまだにあるのかな? 私が働き始めた30年近く前でも、もうネタ的な話になっていたんだけど。