映画「みをつくし料理帖」

【離れ離れだけど、シスターフッド】

ひと月ほど、いろいろ忙しくて映画を見る時間は確保しているのだけど、感想をまとめられなかったので、ゆっくりと追いかけていきます。

まずは、「みをつくし料理帖」

幼馴染の澪と野江の2人の少女は、大水でともに両親を失う。澪は料理人として江戸のつる家に奉公し、東西の味の違いに悩みながらも徐々に評判になり、一方、野江はあさひ大夫の名で吉原随一の遊女となっていて…という物語。

原作は未読ですが、NHKのドラマシリーズは見ていました。

松本穂香は、ほんわかとしたイメージが強い人ですが、本作では2度ほど啖呵を切るようなシーンもありました。本人ももともと関西人ですから堂に入ったもので、なかなか良かったです。太夫との対比のためなのか、メイクも少し浅黒い肌色で、「雲外蒼天」の芯の強さも感じます。

野江(あさひ太夫)役の奈緒は、幼く感じるのではないかと思っていましたが、問題なしですね。ちょっと謎めいた雰囲気を持っている女優さんなので、幻の太夫にはちょうどいいかもしれません。

中村獅童演じる又次もいいですね。原作を読んでいないので何とも言えないところではありますが、きっと当て書きのようにハマっているのではないかと思わせます。

また、滝沢馬琴をモデルにした戯作者・清右衛門(藤井隆)の妻が薬師丸ひろ子なんて、ニヤリとさせてくれます。「里見八犬伝!」。ほかにも角川春樹監督ゆかりの俳優さんたちが、贅沢に出演されています。藤井隆は最初オーバーアクトが少々気になりましたが、重要なシーンではちゃんと締めてくれます。

131分と長めの尺ですが、澪と野江の関係性を軸に、女料理人のお仕事物語であり、澪と小松原様と源斎先生と三角関係の恋物語であり、さまざまな要素が織り込まれており、まったく長さは感じません。

演出としては、大阪での大水の後の露店の料理人の澪に対する態度と、登龍楼の調理場での料理人の行動を重ねるところなどは、好きな演出でした。

一方で、料理描写。シズル感がないというか、あまり「美味しそう! 食べたい!」という気持ちにはなれませんでした。もうちょっと飯テロ系のものを期待していましたが、あえて、過剰な見せ方を避けて、淡々と映すのが和食らしいということなのでしょうか。お昼ご飯の後に見てしまったというのも、影響しているかもしれません。

ただ、10巻も続いた小説を原作にしているということで、ダイジェストっぽさは否めません。敵役の登龍楼のカタのつけ方も、澪と小松原との恋路の行き先も、どちらもしっかりとエピソードを描けないまま中途半端に終わってしまった感があります。 天満一兆庵の跡取りである佐兵衛の存在がばっさりと削られているのは、うまくまとめていると思いましたが、いっそのこと、ドラマを澪と野江の関係のところだけに絞って濃くして、料理店の競い合いや澪の恋愛のエピソードはちょっとした味付け程度にしておいた方が、1本の作品としてまとまっていたのではないかと思います。

例えば、今回はつる家の火事のことは付け火かどうかには触れずに、続編ができるのなら、その時「実はあの火事は…」ということで、より濃いエピソードに盛っていくこともできるでしょう。小松原様の縁談の話も、同じように後に回してもよさそうです。

でも、これが角川春樹監督の最後の作品なんですよね。まあ、この手の売り文句はあまり信用していませんので、「最後のシリーズ作品ということですよ」ということで、続編作ってくれてもいいですよ。

そう考えると、エンドロールでの、あのシーンは、やはり蛇足かな。