映画「ミッドウェイ」

【エメリッヒ監督と戦記モノの意外なマリアージュ】 

マイケル・ベイと「ハリウッドの破壊王」の称号を競い合っているローランド・エメリッヒ監督。2人とも「細かいことは気にするな それどんがらがっしゃーん」が持ち味です。あちらが「パール・ハーバー」を撮ったから、こちらは「ミッドウェイ」です。…そんなわけはないと思いますが、どうやら構想から20年かかっているという触れ込みですので、あながち、ない話でもないかもしれません。

そんな期待感(?)をもって見てきました。

基本的に史実に沿っていますので、あらすじは省略。真珠湾攻撃からミッドウェー海戦、つまり太平洋戦争の始まりから日本が敗戦に向かう転換点までが描かれています。つまり、アメリカにとっては、侵略の危機的状況からの大逆転劇ですから、とてもエメリッヒ的なお話とも言えます。演出としても、実在の人物を描いていて、史実という足かせもありますので、あまり勝手なこともできず、思いのほかエメリッヒ監督との相性はよかったかもしれません。

予告では、「日米双方の視点で描かれている」といった紹介がありました。間違いではありませんが、正確に言うと「8:2ぐらいで、ちゃんと日本側の視点も入っている」という程度。さすがに5:5で1本の戦争映画が成立するなら、イーストウッドが硫黄島プロジェクトでやっているでしょう。

また、ハリウッドメジャーからは資金が集められず、中国資本が入っているということで、日本を貶めるような映画になるのではないか…みたいな話もありました。確かに、なくても構わない中国サービスシーンはありましたが、まあ、そこまでではない。日本上映版は再編集したものという話も聞きますので、ややソフトになっているのでしょう。山本五十六や山口多聞の人物描写には敬意も感じられました。

太平洋戦争初期、アメリカは決して圧倒的な戦力を持っていたわけではないんですよね。むしろ、日本の戦力を恐れていた。日本がアメリカ本土まで来るかもと、本気で思っていた。少なくとも獅子がネズミに噛まれたようなつもりではなかった。そのことはよく分かります。

それで、なぜ日本は負け、アメリカは勝ったのか。

一つは暗号解読の情報戦。アメリカは、真珠湾攻撃で情報分析に失敗した後、日本の攻撃目標がミッドウェイであることを見事に的中させます。そこに戦力を集中させることができます。ここで推測を確認するためにある仕掛けがあるのですが、その流れが面白かったです。無線を傍受するのは楽隊出身の者たちですから耳がいいというのもあるかもしれません。もしかしたら打電のリズムなどから、言葉以上のものが見えてくるのかも…というのは考えすぎか。

もう一つはマネジメント。日本は真珠湾攻撃の指揮官の南雲中将を、さらにその後に有利に進められたはずの第2波攻撃をしなかったにもかかわらず、戦果を上げた英雄として重用し続けます。そして、結果的には、彼が有名な5分間の換装のロスを生み出す判断をしてしまいます(南雲中将は損な役回りでした)。一方、アメリカは、真珠湾攻撃の後に指揮官を交代させ、去る者も的確にアドバイスを残していきます。また、健康に問題がある将兵はすぐに現場を退かせます。戦略に合わせて柔軟にリーダーを変えていきます。いずれも勝ったから言えることかもしれませんが、日米の違いは明確に出ていました。

ただ、全体的な話の流れはわかりづらいと思います。ある程度前知識がないと、今、誰が何のために何をしているのか、よく分からないかもしれません。しかし、それも、戦争という状況下ではそういうもの、全体を俯瞰なんてできやしないということを、我々に仮想的に体験させるためのもののようにも思えてきます。だからこそ、図上演習をきっちりとやること、作戦の目的を明確にしておくことが重要なのでしょう。日本はできていませんでした。

戦闘シーンは、潜水艦からの攻撃や、爆撃機・戦闘機の空中戦などもありますが、メインは急降下爆撃と対空砲火というシーンが続きますので、やや単調に見えます。それでも、思わず全身に力を入れてしまう見せ方はさすがです。急降下爆撃に対する対空砲火なんて、当たらなければラッキーというぐらいで、あれをパイロットは技術でどうこうできるものなのでしょうか。エースパイロットがいるから勝てるというより、生き残ったからエースパイロットということなのかもしれません。冒頭の無茶な帰艦訓練で「これでラストシーン、決定やん」と思っていたら…。こういうベタなのも悪くないです。

「海はすべては覚えている」は印象的ですが、本当に覚えていなければいけないのは海ではなく、人間ですよね。