映画「工作 黒金星と呼ばれた男」

今年、気になりつつも見逃していた本作が、少し前に新文芸坐で上映されていたので観てきました。

事業家を装って北朝鮮に潜入し核開発の進捗を探る韓国人スパイの物語。実話に基づく話ということですが、本当にあそこまで直接的なコンタクトがとれいてたのかと、驚きます。

スパイ映画とは言っても、派手なドンパチがあるわけでも、華麗に空から降りてきて潜入するわけでもなく、基本的には騙しあいと探りあい。実際には、スパイ活動ってのは、こんなものなんでしょうね。ドンパチなんてやってたらどう考えても目立ってしまいますからね。

したがって「正体がバレるかどうか?」という緊張感の連続です。特に、北朝鮮に入ってからは、バレた時点で殺されるのが確実なわけですから、静かな演出ながらも、どんどん緊張は高まります。同時に、相手側も、失敗したら即粛清というお国柄ですから、そちらもピリピリが止まりません。

まあ、事実に基づく話ということは、本人の証言がなければこの映画を作ることはできないわけで。ということはつまり、主人公が闇に葬られるような事態にはならないのだろうと推測できるのですが、それでも、ハラハラさせられます。

身分を偽装するということで、私たち観客は「演じている人を演じている人」を観ることになります。そして、「この人、もう国を捨てるつもりなんじゃないか?」と、すっかりその演技の中の演技に騙されそうになります。上手いですねぇ。

北朝鮮側の面々も、彼を実業家だと心から信じ込んでいたわけではなく、正体はそこそこ把握したうえで、「なんなら、こちら側に引き込もう」「はぐらかしながら、金だけはいただこう」ぐらいの思惑だったんじゃないかと、思ってしまいます。

そこから、大きな政治の駆け引きに巻き込まれていくわけですが、まあ、ひどい話ですねぇ。よく「外交とは、テーブルの上で握手をして、テーブルの下で蹴り合うようなもの」と言われたりしますが、やってることはその逆。 

「権力が、権力の維持のために動いたら、それはもう腐敗」ということを分かりやすく見せてくれます。あれ? お隣の国の話ですよね? スケールは違いますが、なんか身近な話のようにも思えます。

彼は、スパイでありながら、権力のためではなく、国のために動いたってことですね。かつて1つであった祖国のために、ですね。それこそが「浩然の気」ということなのでしょう。

政治腐敗の問題を、とってもエモーショナルなエンターテインメントに仕立て上げた、いい作品でした。