映画「運び屋」

予告編だけを事前情報に観てきました。

「騙されてヤバいものを運ばされていた爺ちゃんが、トラブルに巻き込まれて、ドタバタ、ハラハラする映画」だと思っていたのですが、全然違いましたね。

この運び屋の仕事、いきなり最初からヤバさ全開じゃないですか。

そして、爺ちゃんも、そのことは織り込み済み。早々に何を運んでいるのかは理解していて、その上でノリノリで運んでいきます。

この爺ちゃん、なかなかの曲者で強者です。

まず、えらく社交的というか外面がいい。ポンポンと気の利いたひと言が繰り出される。チヤホヤされることが大好きなんですね。その点では、才能に恵まれている。やたらとモテる。困っている人には、ひとこと声をかけずにはいられない。だから感謝もされる。それが気持ちいいから、どんどんエスカレートしていく。

結局、家庭は省みず、家庭の外で評価されることに自分の価値を置いてきたため、家族から総スカンをくらっている(孫娘を除いて)。

爺ちゃんだから、基本的に頭は古い。いつも携帯を使っている人達にはブツブツ言う。eコマースの波に乗れずに、ユリ農園は差し押さえをくらってしまう。かといって、意固地な頑固爺かというと、そうでもなく、必要となればSMSの使い方もマスターしようとする。ボロボロの愛車に乗り続けてるけど、お金が入れば、あっさりと最新型に買い替えている。やたらと人にアドバイスをしたがるけれども、押し付けることはない。いわゆる「老害」ではないんですよねぇ。

あと、妙に対応力があるのも面白い。運び屋稼働中に、警官に呼び止められた時の回避術は、だてに年をとっていないというか、まだまだアタマも冴えていて行動力もある、スゲぇとさえ思ってしまいます。 そういうところが、麻薬カルテルの下っ端たちにも信頼され、うまくやっていけてしまうところなんでしょうね。

でも、家族に対して、その力を使うタイミングが遅かったという話。でも、遅くなっても、やってみましょうよって話だと思いました。

この爺ちゃん、明らかにクリント・イーストウッド本人が投影されていますよね。

しかも、絶縁状態の娘を演じるのは、イーストウッドの実の娘です。そして、後継者とも言われている(つまり、仕事上の息子である)ブラッドリー・クーパーにも、追う者と追われる者という立場でありながら、アドバイスを送っています。

不穏当な表現になりますが、もう、これは、ある意味「遺言」ですね。

そんな個人的な思いを、90歳のベッドシーンも交えて、ギャグ満載のコメディ映画に仕立て上げるのですから、やはりイーストウッド本人も、曲者で強者です。