映画「劇場版 鬼滅の刃 無限列車編」

連れ合いと娘が見たいというので、急いでフジテレビの一挙放送分を予習して、私も見てきました。原作漫画は未読です。

ほぼほぼ真っ直ぐなストーリー展開で、「実は、あの時のあれがここで生かされて…」的なことが、ほぼほぼないので、物語的に「面白い」というより、演出が「アガる」という感じですね。

まずは、ビジュアル表現の気持ち良さ。テレビシリーズの時からそうでしたが、作画のレベルが高いですね。キャラクターの描写に楽をしていない。特に技の表現は、ゲーム的なエフェクトとも少し違う、色数を抑えたアニメ的表現で、時代設定とともにレトロな雰囲気もあって、とても新鮮に感じます。各キャラクターの衣装も、大正期の和洋折衷ファッションは、「はいからさんが通る」の時代から、なぜか人を引き付けるものがあります。 

そして、劇伴。特に、今回のクライマックスである猗窩座と煉獄のバトルシーンのBGMが、めちゃめちゃカッコいいです。制作現場に詳しくないので分かりませんが、これは先に映像・音声が仕上がってから、全体の流れを踏まえて、後から音楽をつけたという順番なのでしょうか。見事に気持ちを持っていかれます。これを聴きながら出勤したいぐらい。

これは子ども達がマネしてしまうのも当然ですね。自分が小学生だったら、絶対オリジナルの呼吸を開発しています。まあ、「わざわざ、技名を口にするのは、呼吸の邪魔になるのでは?」と思ったりもしますが。

要は、外連味たっぷりの歌舞伎みたいなものですから、あらゆる層に受けるのも納得です。各自が置かれた状況や感情を、すべてセリフとして喋ってくれるので、とても見やすいですよ(笑)。

今回の鬼は、前半が、下弦の壱の魘夢。幸せな夢を見せた後、悪夢を見せて苦しませるのが大好きというド変態です。人の夢の中に使いを送り、その人の「核」を破壊させることで、人格を崩壊させるという術を使います。夢の中に入り込むところは、インセプションを思わせます。

そして、それぞれのキャラクターの見る夢が人物紹介にもなっていて、「彼らがなぜ戦っているのか」を理解する助けになっています。冒頭に「これまでのあらすじ」みたいなものがなく、唐突にストーリーが始まりますから、これは初見の人にも優しい配慮ですね。ただ、人物紹介以外の各種設定(どういう世界で、誰と誰が戦っているのか…とか)には、ほとんど説明がありませんので、完全に初見だと厳しいかもしれません。

また、汽車に乗り込むあたりで、メインキャラクターの3人の性格が分かるようになっているのも上手いと思います。50歳手前の元少年としては、炭治郎の、一点の曇りもない性格、バカがつくほどの真っ直ぐさは、なんとなく「キャプテン翼」の大空翼を思い起こされました。また、善逸の、女好きで基本的にはヘタレなんだけど、最後の最後に決めるところは「キン肉マン」ですね。声優さんの演技が、神谷明を思わせるところも影響しているかと思います。そして、伊之助の強さへの欲求、戦うことへのワクワク感は、「ドラゴンボール」の孫悟空を思わせます。悟空はあそこまで「俺が、俺が」ではありませんが。もちろん、時代設定やアクションなどは、「るろうに剣心」だったり「NARUTO」が下敷きにあるように思えます。

そりゃあ、人気も出ますよね。

そして、本作のメインキャラクターと言ってもいい煉獄杏寿郎ですが、テレビシリーズ後半で揃って柱が出てきたところでは、「声がデカい、ただのバカじゃないか?」と思っていましたが、申し訳ございませんでした。やはり、炭治郎たちと同じように、度を超した「何か」なんですね。自分の強さをちゃんと自覚していて、さらなる強さへの誘惑になびくことのない、本当の強さを持っている人。よく似た弟がいる時点で、この先どのような運命が待っているのか予想はできてしまいますが、この物語の一つの核を炭治郎たちに伝えていますね。

冒頭に、「極めてストレートなストーリー」と書きましたが、炭治郎の血筋や無惨との何かしらの因縁など、TVシリーズからずっと散りばめられている謎は、本作では何も明らかにならずに、そのままペンディングになっています。

そういう意味では、エピローグとして、炭治郎が煉獄の実家を訪れて、何かを知るようなくだりがあってもよかったかもしれません(原作を読んでいないので、そこに何があるのかは知りませんが)。 

それにしても、この密度で、テレビシリーズと映画をやっていたら、いくら原作が完結している物語とはいえ、ずいぶん時間がかかりそうですね。でも、続きも、見てみたいと思わせてくれました。